近年、健康意識の高まりから、「健康的な食品」への関心が高い人も少なくありません。
中でも、油の高カロリーで体に悪いイメージに反する「健康的な油」「体にいいオイル」は、次々に新しいものが登場し、注目されていますが、具体的にはどのように健康によいのでしょうか?
「健康にいい油」「体に良い油」とはどういうものか、どれを選ぶべきか、解説します。
Contents
体に良い油とは
「健康」は、実はかなり抽象的な言葉でもあります。
「健康な状態」というと、やせた姿・ふっくらした姿、単に病気でない状態・いつも以上に活力に満ちた状態など、人によってイメージも異なります。
食品のひとつである「油」において、健康によいかどうかを決めるポイントは、2つあると考えます。
- 生命活動に必須で不足すると欠乏症状が起こる必須栄養素であること
- 肥満や生活習慣病につながりにくい性質を持つこと
必須栄養素である
人が必ず食事からとる必要がある栄養素を必須栄養素といい、必須栄養素は不足すると欠乏症といった体の不調が現れます。
油の中にも必須栄養素となるものがあり、健康維持のためには必要量をとる必要があります。
肥満や生活習慣病につながりにくい性質を持つ
油は総じてエネルギー(カロリー)が高いことが知られており、摂る量によっては肥満や生活習慣病につながりやすい食品でもあります。
そんな油の中にあっても、特に肥満につながりにくいものや、生活習慣病に対して予防的に働くものもあり、このような性質をもつものは「健康によい」と考えることができそうです。
油の性質と脂肪酸構成
人体にとって必須の油、肥満や病気につながりにくい油、これらの性質は「油」の構成成分である「脂肪酸」の種類によるものです。
油(=油脂、トリグリセリド)はグリセリンと脂肪酸からなりますが、脂肪酸には多くの種類があり、それぞれに体内でのはたらきが異なります。
必須栄養素としての油
脂質の中で必須栄養素とされているのは、n-3系脂肪酸、n-6系脂肪酸と呼ばれるものです。
n-3系脂肪酸は菜種油(キャノーラ油)や魚の脂身に多く、
n-6系脂肪酸は植物油全般に多く含まれています。
いずれも不足すると欠乏症が出る必須脂肪酸ではあるものの、通常の食生活を送っている日本人において欠乏症はほとんど見られないため、意識的に摂取量を増やす必要はありません。
肥満・生活習慣病につながりにくい油
一般的に油は重さあたりのエネルギー(カロリー)が高く、肥満につながりやすい食品です。
また、肥満や油脂の摂取量が多いことで生活習慣病のリスクが高まることが知られています。
油の中でも肥満や生活習慣病につながりにくい性質の油があるとすれば、「体にいい油」といえそうです。
エネルギー(カロリー)の低い油
太る(体脂肪が増える)/やせる(体脂肪が減る)ことに影響するのは、特定の食べ物ではなく、食事全体からの摂取エネルギーと生命維持や運動による消費エネルギーの差です。
太りにくい油があるとすれば、同じ量でもエネルギーの低い油ということになりますが、普段私たちが使っている「サラダ油」「オリーブオイル」のような精製した油は、重さあたりのエネルギーにほとんど差はありません。(100gあたり921kcal)
バターやマーガリンのように水分が含まれるものは重さあたりのエネルギーがやや低くなります(15%ほど低下)が、体重の変化が現れるほど大きな違いではありません。
体脂肪になりにくい?中鎖脂肪酸
「中鎖脂肪酸」を多く含む油は、同じエネルギー(カロリー)をとっても、体に脂肪がつきにくい油として知られています。
中鎖脂肪酸は通常の脂肪酸と代謝経路が異なることからエネルギーとして消費されやすく、普段の調理油(サラダ油など)と置き換えて使うことで、体脂肪量の数値がより低下したことが報告*1)されています。
中鎖脂肪酸を多く含む油は、ココナッツオイルやMCTオイルです。
ただし、摂取エネルギーが過剰な状態ではやはり脂肪として蓄積されてしまう*2)ため、摂取エネルギーの管理を踏まえつつ、ほかの油と置き換えて使うことが原則になります。
血中LDLコレステロール値に影響する脂肪酸
生活習慣病のひとつに「脂質異常症」があります。
脂質異常症の診断基準のひとつに、血中LDLコレステロール値(いわゆる悪玉コレステロール)が高いことがあり、健康診断で指摘されている人も少なくないのではないでしょうか?
血中LDLコレステロール値は食事からとる脂肪酸の影響を受けることが知られており、数値を下げる脂肪酸を多く含み、数値を上げる脂肪酸が少ないものは「健康にいい油」と考えることができます。
血中LDLコレステロール値を下げる方向に働くのは「多価不飽和脂肪酸」、必須脂肪酸のn-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸がこれにあたり、植物油や魚の脂身に多く含まれています。
血中LDLコレステロール値を上げる方向に働くのは「飽和脂肪酸」と「トランス脂肪酸」で、健康のために摂取量を減らしたい油といえます。
飽和脂肪酸は必須脂肪酸ではなく、乳脂肪分や肉類の脂身に多く含まれています。
トランス脂肪酸はマーガリンやショートニングなどの製造中に生成する脂肪酸で、知名度は高いものの日本人の摂取量は比較的少なく、飽和脂肪酸より影響は小さめです。
トランス脂肪酸について詳しく解説した記事はこちら
「体に良い油」の選び方・使い方
油の中でも必須の栄養素であり、血中LDLコレステロール値を下げる働きを持つn-3系脂肪酸やn-6系脂肪酸を多く含む植物油や魚の脂、体脂肪になりにくい中鎖脂肪酸などを豊富に含むココナッツオイルやMCTオイルは、健康によい油と言えそうです。
(ただし、中鎖脂肪酸は飽和脂肪酸であるため、注意が必要です)
しかし、いずれも
- 少しでもとれば、または、とればとるほど健康になれる油ではない(一定以上の期間、適量を継続する必要があります)
- いくらとっても健康に害がない油ではない(エネルギー過剰による肥満を招きます)
ということに注意が必要です。
適量摂取が大前提
油は重さあたりのエネルギー(カロリー)が高い成分でもあり、適量の摂取にとどめることが重要です。
摂りすぎにならない脂質の摂取量は摂取エネルギーの20~30%ほど。
18~64歳の女性の場合は400~600kcal程度、18~64歳の男性の場合は500~750kcal程度を脂質からとるのが適量です。
とはいえ、食材にもともと含まれる脂質も少なくないため、普通の人が脂質の摂取量を厳密に管理することは困難です。
よって、「脂質の取りすぎを防ぐ工夫」を行いながら、「健康的な油」を取り入れるのが無難な方法といえそうです。
■脂質の取りすぎを防ぐ工夫
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健康油は置き換えが基本
血中コレステロール値を下げる油、として注目されることが多い多価不飽和脂肪酸(n-3系脂肪酸、n-6系脂肪酸、オメガ3、オメガ6と呼ばれる場合も)。
しかし、この働きはあくまで飽和脂肪酸から多価不飽和脂肪酸に「置き換えて使った場合」について。
いつもの食事に単にプラスするのではなく、飽和脂肪酸を多く含む食品を控えつつ、多価不飽和脂肪酸を多く含む食品を取り入れるのが望ましいでしょう。
サプリメント的に取り入れる方法は摂取エネルギーが増えて肥満につながりかねないため、望ましくありません。
■飽和脂肪酸を多く含む食品(控えたい)
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■多価不飽和脂肪酸を多く含む食品
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まとめ
「健康にいい油」はよく注目されますが、取り入れ方を間違えるとかえって健康を害することにつながりかねません。
大事なポイントは、「食事全体をみること」。
「健康的な油」だからと言って安易に足すのではなく、適量の油の中で、健康にいい油を増やし、健康に望ましくない油を減らしていくようにするのが理想的な取り入れ方といえそうです。
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参考文献 文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書 *1)Kasai M, Nosaka N, Maki H, Negishi S, Aoyama T, Nakamura M, Suzuki Y, Tsuji H, Uto H, Okazaki M, Kondo K. Effect of dietary medium- and long-chain triacylglycerols (MLCT) on accumulation of body fat in healthy humans. Asia Pac J Clin Nutr. 2003;12(2):151-60. *2)青山 敏明.中鎖脂肪酸の栄養学的研究. オレオサイエンス3巻8号(2003) |