健康診断結果などで血圧の下の数値が高いことを指摘されたけれど、どういう状態なのか、どうすれば正常値に近づくのかがわからない、という人も多いのではないでしょうか?
血圧、特に血圧の下の数値が高いときの体の状態と、将来の健康のためにできるポイントについて紹介します。
Contents
血圧とは
血圧は健康診断等でもほぼ必ず計測するものですが、そもそも何を表す数値なのでしょうか?
血圧とは何か、血圧の上の数値と下の数値の意味を解説します。
血圧=血管にかかる圧力のこと
血圧とは、血管内にかかる圧力を表したものです。
血管内には心臓から送り出された血液が通っており、その勢いや血液量によって血管内に圧力がかかっています。
この血管内にかかる圧力を血圧といいます。
血圧は常に一定ではなく、
- 心臓が血液を拍出した瞬間は上昇する、拍出していない瞬間は低下する
- 血管内の水分量が増えると上昇する、水分量が減ると低下する
- 血管が収縮すると上昇する、弛緩すると低下する
など、体の状態によって数値は絶えず変動しています。
血圧は上記のような体の状態に影響を与える気温、体の活動量、食事、時間帯、ストレスなどによって変動することが分かっています。
そのため、血圧を測る際にはなるべくこれらの影響を取り除けるよう、安定した環境で安静にして計測するのが原則です。
安静時でも心臓の拍出による血圧の変動はあるため、血圧をひとつの数値で表すことはできません。
そのため、血圧を計測する場合には最高値と最低値の二つの数値で表すことになっています。
収縮期血圧(上の血圧)とは
血圧の上の数値は「収縮期血圧」といい、心臓が収縮して血液を押し出し、血管に最も強い圧力がかかるときの血圧を表しています。
拡張期血圧(下の血圧)とは
血圧の下の数値は「拡張期血圧」といい、心臓が血液を押し出したあと、心臓が拡張して血液が心臓に戻るときの、最も弱い圧力がかかるときの血圧を表しています。
血圧の下が高いのはどんな状態?
血圧の数値のうち、血圧の下が高いのはどのような状態を指すのでしょうか?
拍出されていないときの圧力が高い状態
血圧の下の数値(拡張期血圧)は心臓が拡張子、血液が心臓に戻ったときの血圧です。
心臓が血液を送り出したことにより上昇した血圧が、心臓に血液が戻っても正常域まで下がりきっていない状態になっています。
考えられる原因
拡張期血圧だけが高くなるのは、心臓に近い太い血管の弾性は保たれているものの心臓から遠い末梢の血管に動脈硬化が起こっている可能性があります。
比較的若い世代で起こりやすいとされ、肥満、運動不足、喫煙などが原因となっていることが多く、放置すると血中脂質や血糖などにも異常が現れ、メタボリックシンドロームに進行しやすいといわれています。
そのほか、別の疾患やまれに重篤な心疾患によるものの可能性もありますので、不安な場合は医療機関への受診をおすすめします。
血圧の上が高い場合との違いとは
血圧の下が高い原因が末梢血管の動脈硬化であるのに対し、
血圧の上が高いのは、末梢血管だけでなく太い血管の動脈硬化が原因となっているといった違いがあります。
高血圧の診断基準では、収縮期血圧と拡張期血圧のいずれかで基準値(後述)を超えると「高血圧」と診断されますので、どちらにしても高血圧の改善のために生活習慣等の見直しが必要になってくると考えられます。
高血圧とは
高血圧とは、上の血圧(収縮期血圧)と下の血圧(拡張期血圧)のどちらか、あるいは両方について、血管にかかる圧力が高い状態を指します。
高血圧は日本人の生活習慣病による死亡に最も大きく影響する要因とされ、成人の2人に1人は高血圧といわれています。
高血圧による症状とリスク、高血圧の診断基準と数値を上げるリスク因子を紹介します。
動脈硬化性疾患のリスクが高い状態
高血圧では血管にかかる圧力が高いために血管への負担が大きくなっています。
血管の負担が増えると血管が硬くなり、弾力性が失われる「動脈硬化」が進み、脳卒中や心臓病などの重大な病気につながることが知られています。
高血圧は自覚症状がほとんどないため、体の変化に気づかないまま動脈硬化が進行していく恐れがあります。
高血圧や動脈硬化の進行を食い止め、将来の大きな病気を予防するためにも、自覚症状がなくとも数値の改善が必要となります。
高血圧の基準値
日本高血圧学会の高血圧診断基準では、診察室と家庭での血圧値について以下のような基準を設けています。
日本高血圧学会の成人における血圧値の分類(㎜Hg)
分類 | 診察室血圧 | 家庭血圧 | ||
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
正常血圧 | 120未満 かつ 80未満 | 115未満 かつ 75未満 | ||
正常高値血圧 | 120-129 かつ 80未満 | 115-124 かつ 75未満 | ||
高値血圧 | 130-139 かつ/または 80-89 | 125-134 かつ/または 75-84 | ||
Ⅰ度高血圧 | 140-159 かつ/または 90-99 | 135-144 かつ/または 85-89 | ||
Ⅱ度高血圧 | 160-179 かつ/または 100-109 | 145-159 かつ/または 90-99 | ||
Ⅲ度高血圧 | 180以上 かつ/または 110以上 | 160以上 かつ/または 100以上 | ||
(孤立性) 収縮期高血圧 |
140以上 かつ 90未満 | 135以上 かつ 85未満 |
日本人間ドック学会の2023年度判定区分表では、経過観察や医療の必要性は以下のように判定されます。
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
正常 | 129㎜Hg以下 | 84㎜Hg以下 |
軽度異常 | 130~139㎜Hg | 85~89㎜Hg |
要経過観察 | 140~159㎜Hg | 90~99㎜Hg |
要医療 | 160㎜Hg以上 | 100㎜Hg以上 |
健康診断では129/84㎜Hg以下は正常値と判定されますが、120~139/89㎜Hg以下の範囲を「高血圧予備群」とする分類もあり、食事などの生活習慣の改善が必要とされることもあります。
また、40歳~74歳の健康保険加入者(被保険者)およびその家族(被扶養者)が対象となる特定健康診査(いわゆるメタボ健診)では、血圧について収縮期血圧130㎜Hg かつ/または 拡張期血圧85㎜Hg以上が高血圧の基準値となります。
メタボリックシンドロームの一要素
また、高血圧はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の要素のひとつで、ほかの要素と組み合わさることで、動脈硬化性疾患のリスクをより高めることが知られています。
メタボリックシンドロームの定義は、
- 内臓脂肪型肥満
に加えて、
- 高血圧
- 高血糖
- 脂質代謝異常
のうち2つが組み合わさった状態とされています。
特定健診において、血圧だけでなく腹囲、血糖値、血中脂質など複数の項目で指摘があった場合には、高血圧よりもさらにハイリスクな状態と判断されますので、早急な対策が必要となります。
高血圧のリスク因子
高血圧のリスクとなる要素は遺伝素因のほか、生活習慣にかかわるものが多くなっています。
心当たりがないかチェックしてみてくださいね。
遺伝素因
高血圧には遺伝が関係しており、親の高血圧がある場合30~50%の確率で子どもも高血圧になるといわれています。
体質の遺伝のほか、親子で似た生活習慣であることも要因になると考えられています。
食塩(ナトリウム)
人の体には血液中のナトリウム濃度を一定に保つ働きがあり、食塩のとりすぎは血液量を増やし、血管内の圧力を高めることにつながります。
もともと日本人は食塩摂取量が多く、標準的な食事であってもほとんどの人が「塩分の取りすぎ」に当てはまります。
肥満
肥満により血糖値を下げるホルモンのインスリンの効きが悪くなるためにインスリン分泌量が増えることで、腎臓でのナトリウムの再吸収が増えること、交感神経の刺激作用などから、血圧を上げることにつながります。
メタボリックシンドロームの診断基準では、
おへその高さでの腹囲が男性85㎝以上、女性90㎝以上の場合を生活習慣病につながりやすい「腹部肥満」としています。
また、日本肥満学会の定めた基準では、
身長と体重から肥満度を表すBMI【=体重(㎏)÷身長(m)2】が25以上の場合を肥満としています。
アルコール
適量を超えた飲酒が習慣化すると、血管の収縮や交感神経の刺激を通じて高血圧の原因となります。
運動不足
慢性的な運動不足は血流が悪くなることから血液の循環のため高血圧につながりやすくなるほか、肥満を介して高血圧の原因となります。
ストレス
精神的なストレス、睡眠不足、過労などにより自律神経の働きが悪くなることにより血圧のコントロール不良が起こることで高血圧の原因となります。
喫煙
血管の収縮と心拍数の増加を促し、短期的に血圧を高める働きがあるほか、動脈硬化を促進して長期的にも血圧を上げる方向にはたらきます。
生活習慣の見直しによる血圧のコントロールが重要
高血圧の治療には薬物療法もありますが、基本は食事や運動などの生活習慣の改善です。
生活習慣の見直しは高血圧だけでなく、高血圧と同様に動脈硬化を進行させる肥満や高血糖、脂質異常症などの発症や進行を防ぐことが期待されます。
血圧を下げるための食事のポイント
血圧と食事には深い関係があり、高血圧の改善には食事の見直しが必須です。
低コストで血圧を改善したり服薬量を減らしたりする効果が期待できるほか、家族で取り組み健康的な食事を身に着けることで、自分だけではなく家族の将来の生活習慣病を防ぐことにもつながります。
減塩
日本人の食事は世界的にみると健康的な食事といわれていますが、塩分摂取量が高いのが弱点です。
世界保健機関(WHO)では、高血圧やその他の疾患のリスクを減らすための食塩摂取量を成人で1日あたり5g未満にすることを強く推奨しています。
また、日本人の食事摂取基準2020年版では、18歳以上の食塩摂取量の目標値として男性7.5g未満、女性6.5g未満としています。
日本高血圧学会の発表している高血圧の治療ガイドラインでは、減塩目標値として1日6g未満と設定されています。
しかし、日本人の日常的な食塩摂取量はこれらの目標値を大きく上回っているようです。
令和元年度の国民健康・栄養調査では1日あたりの食塩摂取量は20歳以上の男性で10.9g、女性で9.3g、別の方法で推定した2014年の報告*)では男性で14g、女性で11gもとっているとするものも存在します。
減塩は現在高血圧とされている人だけではなく、日本人のほとんど全員が必要な取り組みといえます。
減塩のために気を付けたいポイントとしては
- 「ちょっと薄味だけどおいしい程度」から始めて徐々に薄味に慣れる
- 醤油やソースなど後がけ調味料は控えめに、味見をしてから必要か決める
- 麺類のスープは飲み干さない
- 漬物など、塩分濃度の高いものは量や頻度を減らす
- 加工食品は栄養成分表示で食塩含有量をチェックする
- だし、酸味、香味野菜、スパイス、ハーブなど食塩以外の風味をきかせた料理を選ぶ
- 減塩調味料を使う
などが挙げられます。
カリウムやカルシウムの摂取
必須ミネラルのカリウムはナトリウムの排出を促す作用があり、カルシウムも血圧を安定させることが知られており、高血圧では十分な摂取が望まれる栄養素です。
カリウムは様々な食品に広く含まれますが、野菜や果物はカリウムの摂取量を増やしつつも摂取カロリーへの影響が比較的少ないためにおすすめの食品です。
また、カルシウムは吸収率が高い牛乳や乳製品がおすすめで、低脂肪タイプを選ぶと摂取エネルギーへの影響も少なくよりよい摂取源となります。
カリウムと高血圧の関係についてより詳しく解説した記事はこちら
カロリー管理による肥満の是正
BMI25以上30未満の人の場合、BMI20未満の人と比較して高血圧の発症リスクが1.5~2.5倍になると推定されています。
消費カロリーに対して摂取カロリーをマイナスにすることで体脂肪を減らし肥満の改善をする必要があります。
- 間食を減らす
- 脂質の少ない食事を心掛ける
- 砂糖類を多く使った食事を控える
などが取り組みといえますが、食事の改善点は人によって異なる点も多いため、管理栄養士等の栄養指導を受けて自分の食生活の改善点を見つけるのもおすすめです。
肥満の改善に役立つメニュー選びのポイントを紹介した記事はこちら
節酒
飲酒量をゼロにする必要はありませんが、適正範囲に収めることで血圧の低下が期待でき、飲酒制限後1~2週間で血圧の低下がみられたという報告もあります。
高血圧の場合、純アルコール量で男性は20~30ml(日本酒1合、ビール中ビン1本、焼酎半合、ウイスキーダブル1杯、ワイン2杯に相当)、女性はその約半分の10~20ml以下に制限することが勧められています。
DASH食
DASH食は「Dietary Approaches to Stop Hypertension」の略で、「高血圧を止めるための食事療法」を指します。
高血圧の予防・治療を目的にアメリカで考案された食事法であり、以下のような食事の指針を示しています。
- 適正体重の維持のため、摂取エネルギーを適正範囲に抑える
- ナトリウムの摂取量を減らし、カリウムを含む野菜・果物を積極的に摂る
- 飽和脂肪酸を多く含む肉の脂身・乳脂肪を控え、魚油・植物油に置き換える。乳製品は低脂肪のものを選ぶ
- 砂糖入りの食品や飲料を控え、食物繊維を多く含む全粒穀物を積極的に摂る
アメリカの食生活に合わせて考案された指針であるため、日本人の食生活とはかみ合わない部分もあるものの、目指すべき食事の目安の一つになりそうです。
血圧を下げるための運動のポイント
運動は血圧を下げる働きがあるほか、肥満の是正にも効果的なので、積極的に取り入れたい取り組みといえます。
自分の生活スタイルの中でできることを見つけて、少しでも運動量を増やしていきたいですね。
身体を動かす時間を増やす
運動というとスポーツというイメージがありますが、必ずしもスポーツでなければいけないということはありません。
高血圧の治療ガイドラインでも紹介されている健康づくりのための身体活動基準2013で推奨される運動量は、18~64歳の場合、歩行以上の強度の運動を1日60分以上行うこととしており、通勤や家事などの中で十分に実施可能なものとなっています。
具体的には、
- 普通ペースの歩行または早歩き
- 階段の上り下り
- 立った状態での家事(掃除、子どもの世話など)
- 自転車に乗る
- 荷物運び、積み下ろし
などの動作が1日通して60分以上になることが望ましいとされています。
活動時間を増やすために、
- 通勤や買い物での歩行が60分以上になるようにバスや電車の利用範囲を変える
- 早歩きや階段の利用を心掛ける
といった工夫もできますので、取り入れてみてくださいね。
毎日でなくてもよい
運動は毎日の実施が望ましいとされていますが、1日でも空いたら意味がないということはありません。
自分の体調や日常生活とのバランスをとりながら、今までよりも少しでも体を動かす時間を増やすことから始めるとよいでしょう。
その他の生活習慣のポイント
食事や運動のほか、喫煙や睡眠といった生活習慣の見直しでも血圧の改善が期待できます。
喫煙
喫煙は短期的・長期的に血圧を上げるため、高血圧の改善には禁煙が勧められます。
禁煙補助薬等を用いた禁煙指導なども活用できます。
一方で、禁煙に伴う体重増加による血圧の上昇も指摘されているため、併せて食事の管理も重要です。
睡眠
睡眠障害は交感神経を活発にし、長期的な影響として高血圧や脂質異常症、糖尿病、心血管疾患の発症、体重の増加に関与することが知られています。
十分な睡眠時間をとれるよう、早めに布団に入ることを意識したり、睡眠環境を整えたりといった工夫ができるとよいでしょう。
まとめ
血圧の下の数値は「拡張期血圧」といい、血管にかかる圧力の最小値を指しています。
血圧の下の数値だけが高いのも高血圧の一種です。
比較的若い世代に多く、心臓から遠い細い血管で動脈硬化が始まっていることが考えられます。
高血圧の多くは無症状ですが、動脈硬化を進行させ、脳卒中や心臓病といった命にかかわる病気の前段階にあるといえます。
高血圧は糖尿病や脂質異常症と並ぶ生活習慣病であり、食事や運動、その他の生活習慣の見直しで改善が期待できる疾患でもあります。
具体的には、
- 食塩摂取量を減らす
- 肥満の場合は体重を減らす
- カリウムやカルシウムを積極的にとる
- 飲酒は適量範囲にとどめる
- 歩行以上の身体活動を1日60分以上行う
- 喫煙している場合は本数を減らす、禁煙する
- 十分な睡眠をとる
などが効果的な改善ポイントとなります。
血圧低下のためのポイントは肥満や糖尿病・脂質異常症といった血圧以外の生活習慣病の予防・改善にも効果的ですので、できることから取り組めるとよいでしょう。
また、健康診断等で高血圧の治療が必要と指摘された場合には、自己流ではなく医療機関を受診し、医師や専門家の指導のもと治療や生活改善を始めることをおすすめします。
40~74歳の健康保険加入者等が対象となる特定健康診査(メタボ健診)の場合、結果によって特定保健指導の対象となる場合があります。
専門家の指導のもと自分に合った方法で生活習慣病の予防・改善に取り組むことができますので、ぜひ活用してみてくださいね。
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参考文献 *)Keiko Asakura, Ken Uechi, Yuki Sasaki, Shizuko Masayasu and Satoshi Sasaki. Estimation of sodium and potassium intakes assessed by two 24 h urine collections in healthy Japanese adults: a nationwide study British Journal of Nutrition Volume 112, Issue 7 14 October 2014 , pp. 1195-1205 WHO. Guideline: sodium intake for adults and children(2012) 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書 厚生労働省:「「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について」 石光俊彦. 拡張期血圧の臨床的意義 ドクターサロン64巻11月号(10.2020)854-857 医学ボランティア会JCVN:「高血圧とは?原因と対策方法、合併症のリスクなどを解説」 メタボリックシンドローム診断基準検討委員会. メタボリックシンドロームの定義と診断基準. 日本内科学会雑誌; 2005;94:188-203. |