パンに塗ったり料理の材料として使ったり、なじみ深い食材であるバターやマーガリン。
見た目も味も使い道も似ていますが、健康のためにはどちらを選ぶべきなのでしょうか?
エネルギーや栄養素、健康への影響について比較・検討します。
Contents
バターとマーガリンの違い
バターとマーガリンは似た食材ですが、主原料のほか、栄養価や脂肪酸組成に違いがあるようです。
主原料の違い
バターの原材料は牛乳であり、牛乳の中に含まれる脂肪分を集めたものがバターとなります。
食塩を加えたものが主流で、食塩不使用のものは製菓用などになることが多いです。
一方、マーガリン類の主な原材料は植物性油脂です。
製品によっても異なりますが、魚油やラード、牛脂が使われていることも。
主原料である食用油脂に水、乳化剤、乳成分、ビタミン類を加えたものがマーガリン類となります。
(主原料となる油脂の多くは常温で液状ですが、製造工程中の「水素添加」という操作によってマーガリンは常温でも固体を保つことができるようになります)
マーガリン類は油脂含有率によってマーガリンとファットスプレッドに分類されます。
日本の家庭用マーガリンは油脂含有率80%未満の「ファットスプレッド」が主流となっています。
今回は、一般的に利用されることの多い有塩バターと、マーガリン類の中のファットスプレッドを比較します。
主成分とカロリーの違い
バターとマーガリン(ファットスプレッド)の主成分とエネルギーを比較してみましょう。
■10g(大さじ1弱)あたりの栄養価
エネルギー | たんぱく質 | 脂質 | 炭水化物 | |
バター(有塩) | 75kcal | 0.1g | 8.1g | 0g |
ファットスプレッド | 64kcal | 0g | 6.9g | 0g |
バター、マーガリンともにたんぱく質と炭水化物はほとんど含まれず、脂質と水分がほとんどを占めており、栄養素について差が出るのは脂質の内容の違い程度にとどまるといえそうです。
脂肪酸組成の違い
脂質の内容の違いを比べる方法のひとつが、「脂肪酸組成」です。
脂肪酸とは食品に含まれる脂質の構成成分であり、構造の違いによって体内で異なるはたらきを持ちます。
飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸に分ける方法は、脂肪酸の分類方法のひとつです。
■10g(大さじ1弱)ごとの各種脂肪酸含有量
飽和脂肪酸 | 一価不飽和脂肪酸 | 多価不飽和脂肪酸 | |
バター(有塩) | 5.05g | 1.80g | 0.21g |
ファットスプレッド | 2.04g | 2.07g | 2.00g |
*日本食品標準成分表2015年版(七訂)より作成
※横スクロールで表全体の確認が可能です。
脂肪酸組成を比較すると、バターは飽和脂肪酸が多いのが特徴です。
対して、マーガリン(ファットスプレッド)は多価不飽和脂肪酸が多いことがわかります。
また、製品によっても異なるものの、マーガリン類は「人工的なトランス脂肪酸」を含むことが知られています。
トランス脂肪酸が含まれるマーガリンは健康に悪いのか
マーガリンは「トランス脂肪酸」を含むことから、健康に悪いイメージを持たれることも少なくありません。
マーガリンに含まれるトランス脂肪酸の作用と、バターに含まれる脂肪酸の作用を比較します。
トランス脂肪酸とは
トランス脂肪酸とは、水素添加の過程で一部生成する脂肪酸で、多価不飽和脂肪酸ですが、脂肪酸の構造の一部が一般的なもの(シス型)とは異なるものです。
製品によっても異なりますが、平成18年度の調査では、ファットスプレッドには平均5%程度含まれていると報告されています。
トランス脂肪酸は人工的な工程でできるほか、牛の胃の中にいる微生物のはたらきで作られることもあります。
人工的な工程で作られたトランス脂肪酸は血中LDLコレステロールを上げて動脈硬化などのリスクを高める働きがあることがわかり、なるべく摂取しないことが望ましいと考えられています。
トランス脂肪酸について詳しく解説した記事はこちら
飽和脂肪酸の作用
動脈硬化性疾患のリスクを高める「トランス脂肪酸」をふくむマーガリン(ファットスプレッド)は「健康に悪い」「食べるべきではない」といわれることもしばしばです。
では人工的にできたトランス脂肪酸を含まないバターなら安心なのでしょうか?
実は、バターに多い「飽和脂肪酸」にもトランス脂肪酸と同様の作用があり、動脈硬化性疾患のリスク要因になります。
よって、あまり知られていませんが、人工的なトランス脂肪酸を含まないバターであっても、飽和脂肪酸によって同様の作用があるため、「バターなら安心!いくら食べてもOK!」と気軽に言うことはできないのです。
また、トランス脂肪酸に比べて血中LDLコレステロール値を上げる作用は半分程度といわれているものの、トランス脂肪酸よりも習慣的な摂取量が多いため、実際の影響はトランス脂肪酸よりも飽和脂肪酸のほうが大きいと考えられています。
どちらも過剰摂取で肥満と動脈硬化のリスクを高める
一般的には「トランス脂肪酸=こわいもの」と何となく認識されていますが、摂取量が多くそれ以上の作用を持つ飽和脂肪酸への認識はあまりないことも。
上で成分値を紹介したバターとファットスプレッドを比較すると、飽和脂肪酸1gの作用を1、トランス脂肪酸の作用を2とした場合、
血中LDLコレステロールを上げる作用の強さはバター10gではおよそ5、ファットスプレッドではおよそ3という計算になりそうです。(製品によっても異なります)
作用の強さの違いはあれど、人工的なトランス脂肪酸を含むマーガリンと飽和脂肪酸を含むバター、どちらもとりすぎることで摂取エネルギー過剰による肥満や、血中LDLコレステロールを上げて動脈硬化のリスクを上げる方向にはたらくものといえそうです。
バターとマーガリン、どちらも食べてはいけないのか
トランス脂肪酸を含むマーガリンと飽和脂肪酸を含むバター、どちらもとりすぎは健康リスクを高めるものといえそうです。
かといって、バターもマーガリンも、「食べてはいけないもの」ということではありません。
理由はふたつ。
- 飽和脂肪酸もトランス脂肪酸も、バターとマーガリンだけを気にしても意味がない
- 摂取量はなるべく少ないほうがいいが、限りなくゼロにする必要はない
ということが挙げられます。
飽和脂肪酸・トランス脂肪酸の摂取源となるもの
バターやマーガリンを一切取らないようにしたとしても、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取量がゼロになるわけではありません。
そもそも、バター・マーガリンそのものからの摂取量よりも、飽和脂肪酸は肉や乳製品から、トランス脂肪酸は菓子類やパン類、マーガリン以外の油脂類やインスタント食品などからの摂取のほうが多いことが報告*1)*2)されています。
そのため、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の摂取量を気にして、バター・マーガリンの摂取をゼロにしても、あまり意味がありません。
トランス脂肪酸や飽和脂肪酸の摂取量をなるべく減らしたいと気を付けるなら、バター・マーガリンだけでなく食生活全体を見る必要があるといえるでしょう。
健康リスクを回避するための目標
日本人の食事摂取基準2020年版において、摂取目標量はそれぞれ以下のようになっています。
|
飽和脂肪酸とトランス脂肪酸は、どちらも「なるべく減らしたいもの」とされています。
ただし、飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を含むすべての食品(肉、魚、乳製品、油脂類、菓子類、パン類…)を徹底的に避けるような食事は、食事の選択の幅を狭め、かえって栄養素バランスの偏りを招くことも。
飽和脂肪酸・トランス脂肪酸はともに「なるべく減らしたいもの」ではありますが、「少しでも摂取するとたちまち病気になるようなもの」ではありません。
目指すは「ゼロ」ではなく、「とりすぎを避ける」ことです。
まとめ
バターもマーガリンも、日本人の通常の食生活では、健康に与える影響はさほど大きくはありません。
よって、特に食事管理が必要な人でなければ、バターもマーガリンも、どちらを選んでもよいですし、どちらも取りすぎには気を付けたい…というのが結論です。
使わなくていい、という人があえて摂取量を増やす必要は全くありませんが、1日1枚のパンに10gのバター/マーガリンを使う程度であれば、あまり問題はない量といえるでしょう。
加えて、バターやマーガリンだけでなく、ほかの油脂の摂取量にも気を付けることができれば、より健康的といえそうですね。
【おすすめ】ダイエット中の消費カロリーの管理にスマートウォッチを活用しましょう!
スマートウォッチのおすすめ商品ランキングのページはこちら
参考文献 1*)Yamada M, Sasaki S, Murakami K, Takahashi Y, Okubo H, Hirota N, Notsu A, Todoriki H, Miura A, Fukui M, Date C. Estimation of trans fatty acid intake in Japanese adults using 16-day diet records based on a food composition database developed for the Japanese population. J Epidemiol. 2010; 20(2): 119-27. 2*)Satoshi Sasaki, Minatsu Kobayashi, Shoichiro Tsugane. Development of Substituted Fatty Acid Food Composition Table for the Use in Nutritional Epidemiologic Studies for Japanese Populations: Its Methodological Backgrounds and the Evaluation. Journal of Epidemiology, 1999; 9(3): 190-207. 日本マーガリン工業会:「マーガリンの基礎知識・マーガリンのできるまで」 |