葉酸は赤血球の健康維持や胎児の健全な発育に必要となる栄養素です。
葉酸がもつ効果のほか、不足による影響と摂取源となる食品、葉酸を含むサプリメントの必要性と選び方について解説します。
葉酸とは
葉酸は水溶性ビタミンに属するビタミンの一種です。
ほうれん草から抽出されたことから、「葉」の字が使われているといわれています。
化学名では「プテロイルモノグルタミン酸」といい、食品中には構造の異なる「誘導体」として存在し、消化吸収の過程で葉酸に変化して体内で働きます。
葉酸は健康維持のために毎日の食事から一定量を摂取する必要のある「必須栄養素」のひとつです。
葉酸の効果・働き
必須栄養素のひとつである葉酸は、DNAの合成に深くかかわる栄養素であること、動脈硬化を促進する物質の代謝に葉酸がかかわっていることから、以下のような働きがあることが知られています。
- 正常な赤血球の生成を助ける
- 胎児の健全な発育を助ける
- 動脈硬化の予防
それぞれの働きについて、詳しく解説します。
正常な赤血球の生成を助ける
葉酸は赤血球のもとになる「赤芽球」を正常な状態でつくるのにかかわっています。
葉酸の働きにより正常な赤芽球から赤血球が作られることで、血液を健康な状態に保つのに役立っています。
胎児の健全な発育を助ける
葉酸はDNAの合成に必要な成分であり、細胞の分裂や増殖が正常に行われることを助ける働きがあります。
特に、細胞分裂・増殖が活発な胎児が健全に発育するために必要な栄養素のひとつであることが知られています。
動脈硬化の予防
血液中にホモシステインという物質が増えると動脈硬化が促進されることがわかってきています。
葉酸は動脈硬化を促進する「ホモシステイン」を無害なメチオニンやシステインに変換する働きがあり、血中のホモシステイン濃度が高くなるのを防いでいます。
葉酸の不足による影響
葉酸は主にDNA合成にかかわる必須栄養素であり、不足すると以下のような影響が現れることが知られています。
- 巨赤芽球性貧血
- 胎児の神経管閉鎖障害リスク上昇
- 動脈硬化のリスク上昇
巨赤芽球性貧血
葉酸が不足することで正常な赤芽球が作られなくなると、正常な赤血球が減ってしまい、貧血を引き起こします。
葉酸の不足によっておこる巨赤芽球性貧血では、以下のような症状が出ることが知られています。
- 疲労、脱力感、蒼白など貧血症状
- 下痢
- 舌炎
- 食欲不振
胎児の神経管閉鎖障害リスク上昇
葉酸は正常な細胞分裂を助ける働きがあり、妊娠初期に葉酸が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害が起こるリスクが高まることが知られています。
神経管閉鎖障害では以下のような形成異常が起こることが知られています。
- 無脳症
- 二分脊椎
- 髄膜瘤
葉酸は神経管閉鎖障害のリスクにかかわるものであるものの、神経管閉鎖障害の発症には複数の要因があり、葉酸が不足していた場合に神経管閉鎖障害が必ず起こる、または葉酸が不足していなければ必ず起こらないというものではありません。
動脈硬化のリスク
葉酸が不足することで血中のホモシステイン濃度が高まり、動脈硬化の引き金になることがわかってきています。
動脈硬化とは血管が硬くなり柔軟性を失うことを指し、動脈硬化が進むと出血や梗塞(詰まること)のリスクが高くなり、脳卒中や心筋梗塞などの命にかかわる病気につながりやすい状態に陥ります。
葉酸の過剰摂取による影響
葉酸は通常の食生活では過剰摂取の心配が少ない栄養素です。
一方で、サプリメントや強化食品の使い方を誤ると、望ましくない健康障害を引き起こす可能性があることが知られています。
食物由来は心配なし
一般的な食品から摂取される葉酸において、過剰摂取の害は報告されていません。
通常の食生活では不足にのみ注意すればよさそうですね。
サプリでは発熱や蕁麻疹
通常の食品以外のサプリメントや強化食品による葉酸の大量摂取では、以下のような健康障害が報告されています。
- 発熱
- 蕁麻疹
- 神経症状
一般の食品由来の葉酸の吸収率が50%なのに対し、サプリメントなどに含まれる葉酸の吸収率は85%程度と高く、また、大量摂取が比較的容易であることからも、過剰摂取には注意が必要です。
葉酸の一日摂取量の目安
葉酸の摂取不足や過剰摂取による健康障害が報告されていることから、葉酸について1日の摂取量の基準が設定されています。
葉酸の摂取基準値と日本人の葉酸摂取状況について解説します。
葉酸の摂取推奨量・耐容上限量
厚生労働省から発表されている「日本人の食事摂取基準2020年版」では、葉酸の摂取量について、「推奨する摂取量」と「摂取の上限量」が設定されています。
■葉酸の摂取基準(男女共通、推奨量、耐容上限量)
年齢等 | 推奨量 | 耐容上限量 |
0~5か月 | 40㎍ (目安量) | – |
6~11か月 | 60㎍ (目安量) | – |
1~2歳 | 90㎍ | 200㎍ |
3~5歳 | 110㎍ | 300㎍ |
6~7歳 | 140㎍ | 400㎍ |
8~9歳 | 160㎍ | 500㎍ |
10~11歳 | 190㎍ | 700㎍ |
12~29歳 | 240㎍ | 900㎍ |
30~64歳 | 240㎍ | 1000㎍ |
65歳以上 | 240㎍ | 900㎍ |
妊婦(初期) | 400㎍(サプリメントや強化食品に含まれる葉酸として) | – |
妊婦(中~後期) | +240㎍ (付加量) | – |
授乳婦 | +100㎍ (付加量) | – |
厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書 より作成
妊娠期は摂取推奨量が増加する
上で説明したように、受胎後およそ28日までの胎児の神経管が形成される時期に葉酸が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害という形成異常が起こるリスクが高まることが知られています。
日本人の食事摂取基準2020年版では、神経管閉鎖障害発症予防のため、妊娠初期の葉酸摂取量を400㎍とすることを推奨しています。
この時の摂取量400㎍はサプリメントや強化食品に含まれる葉酸としての量を設定されています。
胎児の神経管が形成される時期は、多くの場合まだ妊娠が発覚していない時期です。
そのため、妊娠が分かってから葉酸の摂取量を増やすのでは遅い場合がありますので、妊娠を計画している場合や妊娠の可能性のある場合には、前もって葉酸を十分に摂取しておくことが必要です。
神経管が形成される時期を過ぎた妊娠中期や後期においては葉酸の分解・排泄が促進されるという報告があり、体内の葉酸を適正量に保つため、非妊娠時よりも多くの量を摂取する必要があります。
日本人の葉酸摂取状況
令和元年の国民健康・栄養調査では、20歳以上の男女について、葉酸の摂取量の中央値は
- 男性(20歳以上)…283㎍
- 女性(20歳以上)…269㎍
となっています。
中央値を見ると男女とも摂取推奨値を上回っており、耐容上限量まで余裕がある状態なので、比較的望ましい摂取ができているようです。
とはいえ、これはあくまで中央値の場合です。
偏食等で葉酸を含む食品の摂取量が極端に少なかったり、反対にサプリメント等を不適切に使用しているような場合では、摂取量が不足したり、反対に耐容上限量を超えてしまう人も存在する可能性があります。
葉酸を多く含む食品
体が必要とする葉酸を適量摂取するのに役立つ、葉酸の摂取源となる食品は、以下のようなものが挙げられます。
- 野菜類
- 肉類
- 果物類
- 納豆
それぞれの食品群について、葉酸の含有量を紹介します。
野菜類
葉酸は葉物野菜を中心に多くの野菜に含まれており、野菜類は葉酸の摂取源として大部分を占めています。
水溶性でゆで調理による損失が大きいため、調理前後の値を併記しました。
葉酸が溶け出しにくい油炒めなどの調理法では水分が飛んで重量が減るためか、調理後の重さあたりの葉酸含有量が多くなるものもあります。
■野菜類の葉酸含有量(100gあたり)
食品名 | 葉酸含有量(生) | 葉酸含有量(調理後) |
菜の花 | 340㎍ | 190㎍(ゆで) |
えだまめ | 320㎍ | 260㎍(ゆで) |
モロヘイヤ | 250㎍ | データなし |
芽キャベツ | 240㎍ | 220㎍(ゆで) |
ブロッコリー | 220㎍ | 160㎍(レンジ) 120㎍(ゆで) |
ほうれん草 | 210㎍ | 140㎍(油炒め) 110㎍(ゆで) |
アスパラガス | 190㎍ | 220㎍(油炒め) 180㎍(ゆで) |
春菊 | 190㎍ | データなし |
とうみょう | 120㎍ | 180㎍(油炒め) |
文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 より作成
肉類
葉酸は野菜類だけでなく各種レバーにも多く含まれています。
含有量は野菜類と比較してもかなり多めですが、摂取頻度が低いためか、摂取量に占める割合としては少なめです。
■肉類の葉酸含有量(100gあたり)
食品名 | 葉酸含有量 |
鶏レバー(生) | 1300㎍ |
牛レバー(生) | 1000㎍ |
豚レバー(生) | 810㎍ |
文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 より作成
その他(果物・納豆)
特別に多いというほどではありませんが、一部の果物や納豆にも葉酸が含まれています。
毎日の食事に習慣的に取り入れることで、葉酸摂取量の底上げに活用できそうです。
■そのほかの食品の葉酸含有量(100gあたり)
食品名 | 葉酸含有量 |
納豆 | 120㎍ |
いちご | 90㎍ |
マンゴー | 84㎍ |
アボカド | 83㎍ |
文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 より作成
葉酸を含むサプリメントについて
葉酸を含むサプリメントは、妊娠初期において胎児の神経管閉鎖障害予防のために増加する葉酸の必要量を確保するために役立ちますが、サプリメントの選び方には注意が必要です。
妊娠前後の葉酸を含むサプリメントの必要性と、安全な選び方を解説します。
妊娠前~初期に必要性が高い
繰り返しになりますが、日本人の食事摂取基準2020年版では、胎児の神経管の形成異常を防ぐ観点から、妊娠初期では推奨量として+400㎍の付加量が設定されています。
この付加量は非妊娠時の成人女性の摂取推奨量240㎍と比較しても多く、通常の食事のみで毎日400㎍の葉酸を追加摂取するのは容易ではありません。
そこで、葉酸を含むサプリメントを活用することで葉酸の摂取量を負担なく増やすことができます。
妊娠初期の葉酸サプリメントは、栄養素の摂取源としてサプリメントとしての摂取が勧められる数少ないものといえます。
おすすめはシンプルな配合のもの
妊娠初期における葉酸摂取の重要性は広く知られてきており、葉酸を含むサプリメントはたくさんの種類のものが販売されています。
葉酸だけでなく各種ビタミンやミネラル、またはそのほかの有効成分と称するものなどが複数配合されているものも目立ちます。
たくさんの成分が入っていると良いもののようなイメージがありますが、栄養素や有効成分と称するものは多ければ多いほど良いということはありません。
サプリメントに使用される成分は精製・濃縮されているため、過剰摂取につながりやすかったり、複数の成分による相互作用によって健康に悪影響を及ぼしたりするリスクがあることが知られています。
妊娠時は栄養素が取れているか不安になることも多いと思いますが、ある程度バランスのとれた食事がとれていれば、サプリメントとして摂取する必要があるのは葉酸くらいです。
(妊娠中期以降は貧血の予防のために鉄をサプリメントとして取るのも選択肢としてはよいと考えます。)
おすすめは複数の成分が配合されたものではなく、「葉酸のみ」が配合されたもの。
シンプルな配合で葉酸以外の成分の過剰摂取や相互作用によるリスクが少なく安心です。
まとめ
葉酸は必須栄養素のひとつであり、健康な赤血球の維持のほか、妊娠初期には胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために必要なビタミンです。
不足することで巨赤芽球性貧血や胎児の神経管閉鎖障害のリスク上昇などが知られていますので、普段の食事から十分量を摂取するほか、必要に応じてサプリメントの活用がおすすめです。
日本人の平均的な摂取量では不足の心配はあまりありませんが、偏った食事で不足や過剰にならないよう、バランスのとれた食事を心がけることが大切です。
通常の食品で葉酸を含むものは、野菜類のほか、レバー、果物類、納豆が知られています。
野菜類ではゆで調理による損失が比較的多いものの、調理法を工夫することで損失を抑えられる場合もあります。
妊娠初期の葉酸の必要性は高く、十分量の摂取にはサプリメントの活用が推奨されます。
妊娠初期の女性に向けた葉酸サプリメントでは、葉酸以外の栄養素や有効成分と称するものが含まれているものも販売されていますが、必ずしもたくさんの成分が入ったものを選ぶ必要性はありません。
むしろ、ほかの成分の過剰摂取や相互作用による健康リスクを避ける観点からは、葉酸のみが配合されたシンプルな内容のものをお勧めします。
バランスのとれた食事を心がけたうえで、サプリメントは必要最低限の活用にとどめるのが安心です。
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参考文献 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書 文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 MSDマニュアル家庭版:「ビタミン欠乏性貧血(巨赤芽球性貧血)」 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報「妊娠中のサプリメントの利用について (Ver.191126)」 吉田勉 監修. わかりやすい食品機能栄養学. 三共出版, 2010. 上西一弘. 食品成分最新ガイド 栄養素の通になる 第5版. 女子栄養大学出版部, 2022.8 |