生活習慣病予防から見たたばこと受動喫煙

生活習慣病予防から見たたばこと受動喫煙

たばこによる健康への影響

たばこは広く楽しまれている嗜好品のひとつですが、喫煙による健康への影響は大きく、日本の年間の全死亡者の1割にあたる12~13万人が喫煙によって死亡していると推計されています。

喫煙によって発症しやすくなる病気は肺がんなどのがん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)といった呼吸器系のもののほか、糖尿病やその先にある脳梗塞・心筋梗塞などの生活習慣病も含まれます。

今回は、生活習慣病予防の観点から、喫煙の影響を紹介します。

生活習慣病のリスクを高める喫煙とは?

喫煙は特定保健指導の階層化にも用いられる生活習慣病リスクのひとつ

日常的な喫煙は生活習慣病予防に着目した特定健康診査・特定保健指導においてリスクの数の判定に用いられていることからも、生活習慣病のリスクのひとつとして大きな意味を持つことが分かります。

特定健診・特定保健指導では、
腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上(またはBMI25以上)の腹部肥満(肥満)に加え、血圧高値・脂質異常・血糖高値のいずれかに該当する場合に喫煙習慣を追加のリスクとしてカウントします。

喫煙習慣と判定されるのは6か月以上または累計100本以上

特定健診・特定保健指導において「現在、習慣的に喫煙している(喫煙習慣がある)」と考えられるのは、

  • 今までの合計喫煙本数が100本以上
  • 現在まで6か月以上喫煙している

のいずれかの場合。

さらに、今までの1日平均本数と喫煙年数からわかる「累積喫煙量」によっても健康リスクが異なると考えられています。

喫煙による生活習慣病リスク

単独での作用:動脈硬化亢進

たばこの煙に含まれるニコチンなどの成分の作用により、血管が収縮し、血中の余分なコレステロールが血管壁につきやすくなることで、動脈硬化が進みます。

動脈硬化が進むと脳卒中や虚血性心疾患などの命にかかわる病気を引き起こします。
男性の場合、たばこを吸わない人と比較して、たばこを吸っている人は1日1箱以内の喫煙でも脳卒中・虚血性心疾患での死亡がそれぞれ1.5倍、1日2箱以上では脳卒中での死亡が2.2倍、虚血性心疾患での死亡は4.2倍となっており、健康リスクを高めることが分かっています。

糖尿病、高血圧、脂質異常症を亢進

喫煙は血糖値を下げるインスリンのはたらきを悪くすることで糖尿病を、脂質代謝を妨げることで脂質異常症をそれぞれ発症しやすくすることが知られています。
また、血管を収縮させる作用により喫煙時には血圧が上がります。

2型糖尿病の場合、発症は1日1箱以上の喫煙により男性で1.4倍、女性で3.0倍にも増加します。

さらに、糖尿病・高血圧・脂質異常症やメタボリックシンドロームに喫煙習慣がそれぞれ重なると、脳卒中や心臓病の発症リスクや死亡リスクが高まることが分かっています。

各種生活習慣病と喫煙が重なった場合のリスク
  • 喫煙+糖尿病:脳梗塞・心筋梗塞の死亡リスクが約1.5-3倍
  • 喫煙+高血圧:脳卒中・心臓病での死亡リスク4倍
  • 喫煙+脂質異常:心筋梗塞での死亡リスクが4倍
  • 喫煙+メタボリックシンドローム:脳梗塞・心筋梗塞発症リスクが4-5倍

受動喫煙も生活習慣病リスクとなる

受動喫煙によっても脳卒中や虚血性心疾患、肺がんなどを発症することが分かっており、年間1万5千人が亡くなっていると推計されています。
たばこは喫煙をしている本人以外の健康にもこのような重大な影響を与えることが知られていますが、受動喫煙を防ぐことでこれらの疾患が減少することが報告されています。

禁煙は難しい?禁煙のために活用できるもの・こと

喫煙にはさまざまな健康への影響があるため、なるべく早めの禁煙が望ましいとされています。

禁煙によって生活習慣病のリスクが下がるかも、睡眠の質を改善するかも

煙草を吸い始めてから、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりといったことはありませんか?
禁煙のメリットとしては、上で述べた疾患の発症リスクや死亡リスクを下げるほかにも、不眠のリスクを下げ、睡眠の質を改善する効果が期待できます。

禁煙のための効果的な解決策

ニコチン切れによるイライラは禁煙を妨げるため、自力での禁煙が困難となる場合もあります。
禁煙外来での治療や禁煙補助薬の利用により、ニコチン切れの症状を抑えることができ、比較的楽に禁煙を行うことができ、さらに禁煙の成功率も自力に比べて3-4倍になるといわれています。

禁煙外来は保険がきく場合も

一定条件を満たすことで、禁煙外来は保険適用になります。
健康保険がきくと、治療の費用は1日20本のたばこ代よりも1/3-1/2程度の安い費用で済みます。

時間が取れない場合は市販薬の利用も

禁煙外来を受診する時間がない場合には、薬局や薬店で購入できるニコチンパッチやニコチンガムなどを活用することで禁煙のハードルを下げることができます。

禁煙すると体重が増えるのはホルモン分泌が乱れるため。賢く回避しよう

禁煙をすると体重が増えてしまうことがあり、禁煙に踏み切れない理由のひとつにもなりえます。

禁煙をすると体重が増えてしまうのは、ニコチンの離脱症状のひとつで満腹感が減り、空腹感を感じやすくなることで食事量が増えてしまうためです。

禁煙によって多少体重が増えても健康面ではむしろプラスになりますが、なるべく体重を増やさないためには、禁煙開始4週間前後(ニコチン離脱症状がおさまるころ)から日常生活で身体活動量を上げ、食事を見直すなどの管理を行うことが勧められます。

また、禁煙補助薬を利用することによってニコチン離脱症状を抑えることができるので、食欲の増加を抑え、さらに禁煙開始4週間よりも早い段階から食事や身体活動などの改善に取り組むことができます、

まとめと補足

喫煙による体への害は多岐にわたり、命にかかわるものも多いために早めの喫煙が望まれます。
また、たばこを吸っているご本人だけでなく、家族などの身近な人の健康への影響も無視できません。

近年は保険適用による治療や禁煙補助薬の普及により、昔よりも禁煙しやすい環境が整いつつあるといえるでしょう。

特定健診や特定保健指導などを機に、禁煙に取り組んでみてはいかがでしょうか?