パン、ケーキ、パスタ、ビスケットなど、様々な食品に使われている「全粒粉」。
健康的なイメージもありますが、栄養価や健康面でどのようなメリットがあるのでしょうか?
毎日の食事に取り入れるべきものなのか、解説します。
Contents
全粒粉とは
そもそも、全粒粉とはどんなものでしょうか?
全粒粉の定義と小麦粉、ブランとの違いを解説します。
全粒粉は「まるごと」の小麦粉
全粒粉とは、小麦粉のうち胚芽や表皮を取り除かずに作ったもの。
通常の小麦粉は、小麦の粒から粉にする過程で胚芽や表皮が取り除かれた胚乳のみで作られますが、全粒粉は胚芽や表皮を取り除かずに粉にしたものです。
小麦粉はたんぱく質の含有量により、薄力粉や強力粉に分けられますが、全粒粉にもそれぞれ薄力タイプと強力タイプが存在します。
「ブラン」との違い
「全粒粉」と同様に近年目にすることが多くなってきたのが「小麦ブラン」です。
「ブラン」は「ふすま」ともいい、小麦の表皮のこと。
全粒粉は表皮と胚芽を含む小麦粉のことなので、近いものではあるものの、違うものといえるでしょう。
全粒粉の栄養面・健康面でのメリット
全粒粉は小麦粉の一種です。
では、普通の小麦粉と比較して、全粒粉にはどのような特徴があるのでしょうか?
パンなどの材料になる「強力粉」について、通常の小麦粉と全粒粉を比較してみましょう。
全粒粉と通常の小麦粉のカロリーの違い
強力粉 | 強力全粒粉 | |
エネルギー | 365kcal | 328kcal |
たんぱく質 | 11.8g | 12.8g |
脂質 | 1.5g | 2.9g |
炭水化物 | 71.7g | 68.2g |
*100gあたり、日本食品標準成分表2015年版(七訂)より |
小麦の粒の中で、小麦粉に使われる「胚乳」は8割以上を占め、全粒粉との違いは残りの2割以下でしかありません。
そのため、通常の小麦粉と全粒粉を比較しても、たんぱく質・脂質・炭水化物のバランスはあまり変わらず、そのためにエネルギー(カロリー)にも大きな違いはありません。
全粒粉のビタミン・ミネラル含有量
強力粉 | 強力全粒粉 | |
カリウム | 89㎎ | 330㎎(摂取目標量の12.7%) |
マグネシウム | 23㎎ | 140㎎(摂取推奨量の48%) |
鉄 | 0.9㎎ | 3.1㎎(月経あり摂取推奨量の29.5%) |
ビタミンB1 | 0.09㎎ | 0.34㎎(摂取推奨量の30.9%) |
ビタミンB6 | 0.06㎎ | 0.33㎎(摂取推奨量の30.0%) |
ビオチン | 1.7㎍ | 10.8㎍(摂取目安量の21.6%) |
*100gあたり、日本食品標準成分表2015年版(七訂)より 摂取基準値は日本人の食事摂取基準(2020年版)の30~49歳女性の数値を使用 |
通常の小麦粉と比較すると全粒粉は外皮や胚芽に含まれる栄養素が多くなっています。
100gあたりの含有量が1日の摂取基準の半分近くになるものもありますが、これはあくまで100gあたり(=約1カップ)のこと。
100gの全粒粉を食べる機会はそう多くありませんし、日常的に無理なく取り入れられる程度の量では、あまり意味のある量にはならないかもしれません。
必須栄養素をしっかりとりたいという場合は、いろいろな食品を偏りなくとることが何より大切ですので、全粒粉だけに偏った食事は避けたいですね。
全粒粉は不溶性食物繊維が多い
強力粉 | 強力全粒粉 | |
食物繊維総量 | 2.7g | 11.2g |
水溶性食物繊維 | 1.2g | 1.5g |
不溶性食物繊維 | 1.5g | 9.7g |
*100gあたり、日本食品標準成分表2015年版(七訂)より |
通常の小麦粉と全粒粉において、注目したいのは「食物繊維」の含有量。
特に不溶性食物繊維の量が増え、総量では4倍ほどになっています。
食物繊維は生活習慣病の発症予防などの観点から、積極的な摂取が推奨されている栄養素です。
中でも、糖尿病の発症に関しては、野菜や果物由来の食物繊維よりも、穀物からの食物繊維のほうが予防効果が大きいことが報告されています。
全粒粉をはじめとした食物繊維の多い穀類を習慣的に取り入れることは、糖尿病の予防にも有効といえそうです。
毎日パンやパスタを食べるという人では、全粒粉でできたものに変えることで、穀類からの食物繊維の摂取量を増やすことができます。
しかし、パンやパスタなどの小麦加工品において、「全粒粉」と名前についていても、レシピはそれぞれ異なり、全粒粉の使用割合もばらばらです。
そのため、「全粒粉入り」と書いてあっても、使用量が少なければ食物繊維摂取量の底上げにならない場合も。
栄養成分表示などを確認しながら、食物繊維の含有量が多いものを選びたいですね。
全粒粉のGI値と糖尿病発症予防について
全粒粉は通常の小麦粉に比べて「GI値」が低く健康的、といわれることもあります。
■GIとは 習慣的な食事のGIが高いほど糖尿病になりやすく、GIが低いほど糖尿病発症リスクが低いという報告*1)があります。 このことから、GI値の低い食品(低GI食品)を習慣的に取り入れることは、肥満の予防や運動、塩分・飽和脂肪酸の摂取量コントロールに加えて、糖尿病の発症予防に役立つと考えられています。 |
同じ分量のレシピを使い、小麦粉のみを通常の小麦粉と全粒小麦粉に置き換え、GIを測定した研究では、全粒粉パンのGIは小麦粉パンに比べて低いことが報告*2)されています。
しかし、市販品のGI値のデータを集めたシドニー大学のデータベース(英語サイト)では、全粒粉を使用したパンのGIは製品によっても大きく異なり、45~73となっています。
また、様々な食品のGI値をまとめ、平均値をまとめた研究でも、全粒粉パンのGI値の平均値は74±2、白パン(普通のパン)は75±2と、あまり差がないという結果*3)になっています。
全粒粉は通常の小麦粉と比較すると食物繊維が多く、血糖値が上がりにくい食材であることは間違ってはいませんが、食物繊維と同様に、「全粒粉入り」と書いてあればよい、とはいえなさそうです。
それぞれの商品ごとに判断したいところですが、残念ながら、製品情報においてGIについては触れていないものがほとんどです。
GI値について詳しく解説した記事はこちら
全粒粉の特徴と取り入れ方
全粒粉は味や栄養価で通常の小麦粉と異なる性質を持っています。
全粒粉の特徴を生かした使い方、注意したい点をいくつか紹介します。
独特の風味を楽しむものとして
小麦の胚芽や表皮が含まれることで、全粒粉を使用した製品は通常の小麦製品と異なる風味があるものも。
いつもと違う味わいを楽しむため…というのも、「全粒粉入り」を選ぶ理由になるでしょう。
食物繊維の摂取源として
製品ごとの全粒粉の使用量により、必ずしも食物繊維が豊富に含まれるとは限りませんが、「全粒粉入り」のものは食物繊維が通常より多い(かもしれない)ものの目印として、選ぶときの参考になりそうです。
できれば栄養成分表示などを確認し、実際の食物繊維含有量を確認するのがおすすめです。
おなかが弱っている人には注意が必要
食物繊維は人の消化管で消化吸収をされないため、腸の刺激になる性質があります。
全粒粉などの食物繊維の多い食品は、消化吸収能力の低い乳幼児や胃腸のはたらきが弱っている人には負担になる場合も。
消化の良い食品が求められる場面では食物繊維の多い食品をあえて食べさせる必要はないため、状況に応じて選択するようにしましょう。
まとめ
通常の小麦粉と全粒粉を比較すると、エネルギーに大きな違いはありませんでしたが、一部のミネラル・ビタミンと食物繊維が豊富なことが特徴といえそうです。
中でも、全粒粉に含まれる食物繊維は「穀類由来の食物繊維」として生活習慣病の予防のために積極的に摂りたいもの。
摂取エネルギーカットにはならないためダイエット向きとは言えませんが、適正体重の維持や運動、食物繊維以外の食事に加えて、生活習慣病予防のために習慣的に取り入れたいものといえそうです。
ちなみに、糖尿病の発症予防に働くと考えられている「穀物由来の食物繊維」は、全粒粉以外からでも取ることができます。
例えば、玄米や5分搗き米、押し麦、もち麦、オートミール、そばなど、精製度の低い穀物はどれも食物繊維が豊富なものです。
全粒粉に限定せず、いろいろなものを取り入れられると飽きにくく、続けやすくなります。
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参考文献 文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書 *1)Greenwood DC, et al. Glycemic index, glycemic load, carbohydrates, and type 2 diabetes: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. Diabetes Care 2013; 36: 4166-71. *2)青江 誠一郎, 野崎 聡美, 菊池 洋介, 福留 真一, 小麦全粒粉配合パンの食後血糖値上昇抑制効果, 栄養学雑誌, 2018, 76 巻, 1 号, p. 20-25 *3)Atkinson FS, Foster-Powell K, Brand-Miller JC. International tables of glycemic index and glycemic load values: 2008. Diabetes Care. 2008 Dec;31(12):2281-3. 佐々木 敏:「佐々木敏の栄養データはこう読む!」.女子栄養大学出版部,2015. |