生姜は独特の香りと辛味を持つ香辛料として親しまれているほか、薬効のある生薬としても利用される食品です。
生姜のはたらきはいくつか報告されていますが、特に「冷えとり」の効果がよく知られています。
しかし、実際の効果ははっきりとは確認されておらず、味覚によるものが大きいようです。
今回は、生姜を摂取することで期待できる効果・効能と、生姜の体を温める作用について解説します。
また、冷え性に悩む人が冷えを解消するために気を付けたいポイントについても紹介します。
Contents
生姜の効果効能
生姜は香味野菜のひとつですが、古くから生薬としても活用されています。
いくつかの研究で、生姜を摂取することで、吐き気や月経困難症の症状に効果があることが示唆されています。
吐き気・嘔吐の軽減
複数の研究において、生姜の乾燥粉末を一定量摂取することで、つわり、抗レトロウイルス誘発性や術後の吐き気、嘔吐の軽減に対する有効性が示唆されています。
月経困難症
月経困難症は月経に随伴して起こる病的症状で、下腹部痛や腰痛、腹部膨満感、吐き気や頭痛などを指します。
月経困難症の女性が生姜の粉末を一定量・一定期間摂取することで、痛みの強さや痛みの期間が減少したとの報告があります。
体を温める効果は未確認
生姜と言えば「冷え取り」に効くイメージが広く浸透しており、ホット飲料やスープ、サプリメントなど、生姜のポカポカ効果をうたった商品が多く市場に出回っています。
しかし、冷え性気味の女性を対象とした試験では、生姜の抽出物の摂取により、脈拍数の増加がみられたものの、手足の指先の表面温度や血圧に変化はなかったと報告されています。
生姜に含まれる成分には交感神経を刺激して脈拍や体温を上げる作用はあるようですが、目に見えるレベルでの体温上昇は確認できていないようです。
そのほかでも、生姜と体温の上昇を示す研究報告はなく、現時点では生姜を食べても体温が上昇するとは言えないようです。
生姜を食べると体がポカポカしてくる感覚は多くの人が経験のあるものと思われますが、これは体温上昇とは別のメカニズムで起こっているようです。
生姜を食べて温かくなるメカニズム
生姜の入った飲み物や食べ物を食べると、体がポカポカしてくる感覚があります。
これは体温の上昇とは別に、生姜に含まれる辛味成分の働きで起こるものであることが知られています。
生姜に含まれる辛味成分は、主にショウガオールやジンゲロールなど。
これらの成分による温感刺激について解説します。
辛味成分の温感刺激とは
生姜を食べると生姜に含まれる辛味成分が口の中の温かさを感じる受容体(TRPV1)を刺激し、体が温かくなったように感じます。
実際には温度が高くなくても、温かさのセンサーが刺激されるため、温かくなったように感じるのです。
また、この生姜の辛味成分は交感神経を刺激することが知られています。
交感神経が刺激されると心拍や血圧が上昇するため、結果として体温上昇に作用するといわれていますが、生姜の場合には実際に数値として現れるほど、その作用は強くないようです。
生姜を食べた時のポカポカ感はあくまで「感覚上だけのもの」。ポカポカする「味」と考えるのがよさそうです。
辛み成分と温受容体による温感は、実際の体温上昇にはつながらないものではありますが、寒い時期の食事の時により温かさを感じることに役立つと考えられます。
発汗による体温低下に注意
体が熱さ(暑さ)を感じると、余分な熱を放出しようとして血管を拡張させ、汗をかきます。
しかし、味覚からの熱さによって汗をかいた場合では、実際にはそれほど体温が上がっていないのに体温を下げる仕組みが働くため、より体温を下げてしまうとも考えられています。
生姜に限らず、体が冷えているから辛いものを食べよう!といって汗をかくほど食べるのは、かえって体温を下げることにつながってしまいます。
生姜の効果を高める調理法
生姜の辛味成分は複数あり、代表的なものがショウガオールとジンゲロールです。
ショウガオールは上で紹介した通り、温感を感じるTRPV1温受容体を刺激する辛味成分です。
いっぽう、ジンゲロールはショウガオールとは反対に、冷感を感じるTRPA1冷受容体を刺激する辛味成分です。
これらは加熱によって量が変わることが知られており、より温かさを強く得たい場合には、生姜を加熱して食べるのが良いとされています。
寒いときは加熱調理がおすすめ
体を温めたいときには、生姜は加熱調理して食べるようにしましょう。
30~60分の加熱調理により、冷感を刺激するジンゲロールは減少し、温感を刺激するショウガオールが増加することが知られています。
生姜を入れたスープや煮込み料理は寒い時期にぴったりの料理です。
体を温めたいときの調理法として理にかなったものといえますね。
暑い時期は生のままがおすすめ
反対に、暑くて体を冷ましたいときには、生姜は生で食べるようにするとよいでしょう。
生姜は生の状態では冷感を刺激するジンゲロールが多く、温感を刺激するショウガオールが少ないことが知られています。
暑い時期の食事で、そうめんや冷奴などの冷たい料理に生の生姜を薬味として使うのは、こちらも理にかなっているといえます。
冷えを解消するためのポイント
寒い季節だけに限らず、冷えが気になるという人は少なくありません。
生姜など、温かさを感じる食べ物を活用するのも一つの方法ですが、体温そのものを上げてくれるわけではないため、根本的な解決にはなりにくいでしょう。
より効果的に体温を上げるためには、食事をしっかりとることと、筋肉量を増やすことをおすすめします。
十分な食事摂取
「エネルギーのあるもの」をしっかり食べることによっても体温を上げることができます。
食事に含まれる栄養素のうち、エネルギー源になるのはたんぱく質、炭水化物(糖質)、脂質です。
体温を生み出すためのエネルギー源としての栄養素としてももちろん重要ですが、これらの栄養素は食後、消化吸収の過程で一部を体熱の産生に消費することがわかっています。
たんぱく質は30%、糖質は6%、脂質は4%、これらが混ざり合った通常の食事では10%程度が食後の体温産生に使われます。
食後にポカポカしてくるという経験はないでしょうか?
生姜成分入りのサプリメント…などではなく、しっかりとエネルギーをとれる食事を食べることで、自然に体温を上げることができます。
冷えが気になる人で、サラダなどの低カロリーな食事が多いという場合には、ごはんやパン、メインのおかずなどのエネルギー源が含まれた食事をしっかりとることを意識するとよいでしょう。
筋トレ
筋肉は体熱をつくる働きがあるため、筋量を増やすための筋トレも効果的です。
ヒトの体の中で体温の産生を行っているのは内臓と筋肉です。
特に筋肉では、筋量・活動量が多いほどエネルギーを使って熱を産生するため、筋量が増えるほど基礎代謝が高く、体温産生が盛んになります。
内臓の活動を自分でコントロールすることはできませんが、筋肉ならトレーニングなどで増やすことができます。
毎年の冷えがつらいという人は、次の冬に備えて筋トレを始めるのもひとつの方法です。
まとめ
冷え対策の特効薬のように扱われることもある生姜ですが、その効果ははっきりと確認されているものではありません。
あくまで食材のひとつとして、より強く暖かさを感じるための味付け、スパイスであるという風に理解したほうがよさそうです。
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参考文献 尾形 優, 金子 健太郎, 後藤 慶太, 河野 かおり, 山本 真千子. 冷え症の生理学的メカニズムについて―循環動態および自律神経活動指標による評価―Japanese Journal of Nursing Art and Science Vol.15, No.3, pp227-234, 2017 夏野 豊樹, 平柳 要. 生姜抽出物の経口摂取が冷え性の人のエネルギー消費等に及ぼす効果 人間工学 Vol.45, No.4 p.236-241(2009) 吉田 真美、平林 佐央理. ショウガ中の6-ジンゲロールの加熱調理による変化 日本調理科学会誌,Vol.48,No.6,398~404(2015) 温度感受性TRPチャネル Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.37 No.3 164-175(2013) |