ココナッツオイルはダイエットや健康に効果的な油、といわれる一方で、体に悪い油だから控えるべき、とする情報も。
どちらも気になりますが、その理由はココナッツオイルの「脂質の特徴」にあるようです。
Contents
ココナッツオイルとは?
「ココヤシ」の果実の白い胚乳部分(ココナッツミルクの原料)を乾燥させたものから搾り取れる油をココナッツオイルといいます。
植物からとれる油脂としては珍しく、比較的高い温度(20度以下)でも固まりやすい性質を持ちます。
ココナッツ独特の香りを残したものと、香り成分を取り除いた無香タイプも製造されています。
ココナッツオイルの栄養面のメリット
メディアで取り上げられているココナッツオイルが体にいい、といわれるポイントはいくつかあり、
「蓄積されにくい中鎖脂肪酸が豊富で太りにくい油」
「認知症や便秘解消に効果的」
などとして紹介されています。
一方でココナッツオイルは体に悪いとする情報もあります。
「カロリーが高く肥満のもと」
「飽和脂肪酸が多く生活習慣病リスクを上げる」
とも言われています。
体にいいとする情報と悪いとする情報、どちらの情報が正しいのでしょうか?
栄養学の専門用語が多くなってしまいますが、なるべく丁寧に解説します。
ココナッツオイルには中鎖脂肪酸が豊富
一般に食用に使われる油は長鎖脂肪酸の割合が多いのに対し、ココナッツオイルはほかの動物・植物からとれる油脂と比較して中鎖脂肪酸の割合が最も多く、全脂肪酸の60%以上が中鎖脂肪酸でできています。
内訳としては、
炭素数8のカプリル酸が8%
炭素数10のカプリン酸が6%
炭素数12のラウリン酸が47%
を占めています。
残りの1%は短鎖脂肪酸、38%は長鎖脂肪酸でできています。
中鎖脂肪酸とは
脂肪酸、というのは油脂を構成するもののひとつです。
多くの油脂はグリセリンひとつに脂肪酸が3つ結合した状態で存在します。
脂肪酸は炭素原子が多数連なった鎖状の構造をしており、炭素原子の数(≒鎖の長さ)によって
短鎖脂肪酸(炭素数2.4.6)
中鎖脂肪酸(炭素数8.10.12)
長鎖脂肪酸(炭素数12以上)
に分類されます。
炭素数12の脂肪酸は資料によって中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸のどちらにも分類される場合があります。
中鎖脂肪酸はダイエット効果あり?
どの脂肪酸も消化管の消化酵素によって分解され、腸管壁から吸収されます。
一般的な油脂に多く含まれる長鎖脂肪酸は吸収後、中性脂肪の状態でリンパ管から血管を経て全身を回り、エネルギー源として使用されます。
全身を回った後に余った分が肝臓に運ばれ、蓄積されます。
一方で中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸に比べると消化されやすく、長鎖脂肪酸とは異なるルートで吸収され、全身を回ることなく肝臓に運ばれ、エネルギー源として利用されることが分かっています。
そのため、中鎖脂肪酸は通常の油脂よりも
- 食後の血中中性脂肪を上げにくい
- エネルギーとして消費されやすい
- 体脂肪として蓄積されにくい
という特徴があることが分かっており、体に脂肪の付きにくい油として特定保健用食品にも利用されています。
ただし、体脂肪として蓄積されにくい、という特性を持つのは中鎖脂肪酸のみなので、それ以外の食事から摂取した油脂には効果は及びません。
消費エネルギーに対して摂取エネルギーが多い場合には余ったエネルギーは体脂肪として蓄積されるため、「いつもの食事に加えるとやせる」といったものではないことに注意が必要です。
そのため、トクホについても通常の油と「置き換えて使うこと」が前提となっています。
「油の中では太りにくいものの、ただ足すだけでは意味なし」というのが実際のところのようです。
認知症予防や便秘解消効果は裏付けなし
ココナッツオイルの効果を紹介する書籍やメディアでは、ココナッツオイルが認知症を予防する、便秘を解消する効果があるとうたうものもあります。
しかしいずれも信頼性の高い研究報告は存在しないため、現時点では「効果は期待できない」ということになります。
ココナッツオイルの栄養面のデメリット
反対に、ココナッツオイルの栄養的なデメリットはどんなものがあるでしょうか?
カロリーが高い
体脂肪の増減は摂取エネルギーと消費エネルギーの差がすべてなので、これを食べたら太る、または痩せる、といった食品は厳密には存在しません。
ただし、重さあたりのエネルギーが多い食品は少量でも摂取エネルギーを増やす要因となるため、摂取量には注意が必要です。
ココナッツオイルは一般的な植物油と同じように、脂質が100%を占める「純粋な油」であり、エネルギーも100gで921kcalとなっています。
ココナッツオイルはエネルギーとして消費されやすい特性があるとはいえ、摂取エネルギーが消費エネルギーを超えている状態では体脂肪が減るということは起こりません。
ほかの食事とのバランスが取れている状態ではココナッツオイルを使っただけで太る、体に悪い、ということは考えにくいです。
しかし、むやみに足すだけでは摂取エネルギーの増加によって肥満につながりかねない、という点には注意が必要です。
生活習慣病のリスクを高める方向に働く飽和脂肪酸が多い
「中鎖脂肪酸」という分類は脂肪酸の「長さ」による分類です。
長さによる分類とは別に、「飽和・一価不飽和・多価不飽和」という脂肪酸の「形状」によって分類する方法も存在します。
ココナッツオイルの大部分は飽和脂肪酸
ココナッツオイルに含まれる脂肪酸の91%を飽和脂肪酸が占めています。
ココナッツオイルの飽和脂肪酸の割合はバターや牛脂などの動物性脂肪を含むすべての食品の中でも最も多いのが特徴です。
飽和脂肪酸は摂りすぎに注意
飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸と比較して
- 血中LDLコレステロールを上げる方向に働く
- 血中LDLコレステロールの上昇は動脈硬化性疾患、心筋梗塞のリスクを高める
とされており、「とりすぎに注意」したい成分のひとつです。
単にプラスするのは摂取過剰に
日本人の食事摂取基準(2020年版)でも、飽和脂肪酸の摂取量は、「摂取エネルギー全体の7%以下にとどめること」が目標として示されています。
摂取エネルギー全体の7%というのは、1日に2000kcalを摂取する人(おおよそ中程度の身体活動を行う成人女性レベル)で140kcalぶん、量にして15g程度までとなります。
現代の日本人は通常の食生活で7%前後、15g近い量の飽和脂肪酸を摂取しています。
それに加えて、いつもの食生活に単にココナッツオイルを加えるのでは、飽和脂肪酸の摂取量が目標範囲を超えてしまいます。
摂りすぎないための方法としては同じく飽和脂肪酸を豊富に含むバターや動物性脂肪と置き換えて使うというものも考えられます。
しかし、ココナッツオイルはバターや動物性脂肪に比べても倍近い量の飽和脂肪酸を含んでいるので、使うのであれば半分程度に抑えるといった調整をするのが望ましいでしょう。
いずれにせよ、健康を目的とするのであれば、普段の食事にココナッツオイルを加える場合には配慮が必要、と考えます。
ココナッツオイルのは健康にいい?
ここまでの内容をまとめると、ココナッツオイルには「体にいい点と、悪い点の両方がある」といえそうです。
ココナッツオイルに含まれる脂質は、エネルギーとして消費されやすい「体脂肪として蓄積されにくい油」である一方で、「エネルギー摂取過剰を帳消しにするものではなく」、「生活習慣病のリスクを高めやすい油」でもあるようです。
少なくとも、「ココナッツオイルは体にいいからどんどん摂りましょう!」といったものではないということは確かなのではないでしょうか。
かしこい使い方…適量で風味を楽しみましょう
健康目的とは別に、独特の風味が好きで楽しみたい、という人もいるかと思います。
ココナッツオイルはなにも「絶対に食べてはいけないもの」というわけではありません。
ほかの食事内容を調節したり、使う頻度を少なめにしたりといった工夫をすることで、
取りすぎに注意しながら適度に楽しむのがいいでしょう。
健康にいい油について詳しく解説した記事はこちら
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参考文献 青山 敏明.中鎖脂肪酸の栄養学的研究. オレオサイエンス3巻8号(2003) 文部科学省:「食品成分データベース:日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 |