投稿日:2022.05.30 | 最終更新日:2023.08.16

母乳とミルクの違いとは?栄養・免疫からメリットとデメリットを解説

生まれたばかりの赤ちゃんの栄養源となるのは、母乳やミルクなどですが、この二つにはどのような違いがあるのでしょうか?

母乳とミルクそれぞれについて、栄養成分についての特徴と、授乳を取り巻く環境におけるメリットデメリットを整理しました。
メリットやデメリットを各家庭の状況などと合わせて考慮し、最善の方法を選びたいですね。

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粉ミルク

母乳とミルクの違い

母乳とミルク(育児用ミルク、乳児用調製乳)は、どちらも生まれたばかりの赤ちゃんの栄養源となるものです。

母乳は出産後のお母さんの乳腺から分泌されますが、ミルクは牛乳を原料とし、各種栄養成分を調整して製造されています。

基本となる栄養成分はほぼ同じですが、ミルクにより多く含まれる成分、母乳により多く含まれる成分など、違う部分もあります。
また、栄養成分以外にも、統計的に異なる部分があることが指摘されています。

基本的な栄養素は同じ

母乳は赤ちゃんに最適な成分組成であり、赤ちゃんの体への負担が少ないことが知られています。

そのため、育児用ミルクでは基本的に母乳の栄養成分に近づけるように作られています。

よって、母乳と育児用ミルクに関して、以下の基本的な栄養素の量や組成にはほとんど差はありません。

  • エネルギー(カロリー)
  • たんぱく質
  • 脂質
  • 炭水化物
  • ビタミン(一部除く)
  • ミネラル(一部除く)

ミルクに多く含まれる成分

育児用ミルクは基本的に母乳の成分組成を模して造られていますが、一部の栄養素に関しては育児用ミルクにより多く含まれています。

  • ビタミンK

これらの栄養素は母乳では不足しやすいことが分かっていることから、育児用ミルクでは不足しないように調製・強化されています。

母乳に多く含まれる成分

母乳では、育児用ミルクに少ない、または成分が含まれる場合もあります。

  • 免疫グロブリンやラクトフェリンなどの感染防御因子(特に初乳)
  • 母親が摂取した成分の一部(アルコールや医薬品など)

出産後間もなくの母乳は「初乳」と呼ばれ、免疫グロブリンなどの感染防御因子が多く含まれています。
(同じく感染防御因子であるラクトフェリンに関しては、育児用ミルクにも配合されていることがあります)

一方で、お母さんが摂取したアルコールや医薬品成分の一部が母乳にも移行することが知られています。

成分以外の違い

含まれる成分の違い以外にも、母乳と育児用ミルクには、大きく分けて3つの違いがあります。

  • 身体的な影響の違い
  • 金銭的な影響の違い
  • 統計上の健康リスクへの影響の違い

それぞれの違いについて、育児用ミルクのメリット・デメリット、母乳のメリット・デメリットとしてそれぞれ紹介します。

ミルクのメリット

ミルクをあげる男性

育児用ミルクのメリットは、主に以下の3点が挙げられます。

  • 母親以外もあげられる
  • 授乳量が把握しやすい
  • 母親の身体トラブルが避けられる

以下で詳しく解説します。

母親以外もあげられる

母乳では基本的にお母さんからのみ与えることができます。

一方、育児用ミルクでは調乳すれば誰でも赤ちゃんに授乳することが可能です。

このことで、お母さんの身体的な負担を軽減するだけでなく、お母さん以外の人と赤ちゃんの愛着形成に役立つといえます。

授乳量が把握しやすい

育児用ミルクでは調乳した量と残した量から、赤ちゃんが飲んだ量が把握しやすいのが特徴です。

授乳量は十分に栄養が摂れているかの目安の一つとなりますので、授乳量がわかりやすいのはメリットといえるでしょう。

母親の身体トラブルが避けられる

母乳の授乳では、乳頭の損傷や乳腺炎などのトラブルが起こりえます。

育児用ミルクのみの授乳ではこれらのトラブルは起こらないため、お母さんの身体的負担をさらに軽くできる方法といえます。

ミルクのデメリット

メリットも多い育児用ミルクですが、以下のようなデメリットも存在します。

  • 調乳の手間がある
  • ミルク代がかかる

育児用ミルクのデメリットについて解説します。

調乳の手間がある

育児用ミルクでは調乳作業や消毒などの作業が必要です。
特に新生児期の授乳では3時間おきなど頻繁に授乳が必要であり、睡眠不足の上に毎回調乳作業が必要になるため、調乳や消毒などの作業が大きな負担になる場合も。

キューブタイプ・個包装タイプ・液体ミルクなど、手間をカットできる製品もありますが、次に述べるコスト面のデメリットにも関係します。

ミルク代がかかる

育児用ミルクでは購入費用が必要であり、またその価格も無視できるものではありません。

育児用ミルクは商品の形態によっても異なりますが、最も安い粉ミルクの大容量缶の場合で100mlあたり30円前後。
1日の授乳量は多い時期で1200mlほどにもなるため、育児用ミルクは1カ月に1万円以上のコストがかかることもあります。

キューブタイプ・個包装タイプ・液体ミルクなど、便利な商品を活用した場合には、それ以上の費用負担になる場合もあります。

母乳のメリット

母乳のメリットは以下の4点が挙げられます。

  • 母体の回復を促進する
  • 調乳の手間がない
  • ミルク代がかからない
  • 赤ちゃんの健康リスクの低下

それぞれについて、以下で詳しく解説します。

母体の回復促進

授乳の乳頭刺激により、脳下垂体からプロラクチンやオキシトシンといったホルモンが分泌されます。

このうちオキシトシンは子宮の収縮を促すホルモンで、妊娠・出産によって大きくなった子宮をもとの大きさに戻す作用を助けます。

プロラクチンには排卵を抑えて月経の再開を遅くする作用もあるため、月経による負担を減らすとも考えられます。

また、母乳は体内の栄養素を使って作られているため、母乳をあげているお母さんの消費カロリーを増やします。
そのため、妊娠中に増えた脂肪を減らし、元の体重に戻すのに役立ちます。
(ただし、産後はホルモンバランスの変化から、通常よりも食欲が増す傾向にあります)

調乳の手間がない

母乳育児では常に新鮮な母乳が衛生的に赤ちゃんに届くため、調乳や哺乳瓶等の消毒作業が不要となります。

生まれてすぐの頻回授乳が必要な時期においては大きなメリットとなりますね。

ミルク代がかからない

育児用ミルクでは最低でもミルクや哺乳瓶、消毒器具等の購入費用が掛かりますが、母乳ではそのような出費がありません。

一方で、母乳であっても場合によっては乳糖保護器などの出費が考えられるほか、搾乳機や哺乳瓶が必要なパターンもあります。

赤ちゃんの健康リスクの低下

母乳育児では、いくつかの疾病の発症リスクについて、統計的に違いがあることが知られています。

  • 乳児突然死症候群の発症率の低下
  • 小児期の肥満やのちの2型糖尿病の発症リスクの低下

一方で、少し前までは母乳で育てると食物アレルギーになりにくいなどの説がありましたが、現在では否定されています。

母乳のデメリット

メリットの多い母乳育児においても、デメリットとなる点も存在します。

  • 母親の負担が増える
  • 授乳量が把握しにくい

以下で詳しく解説します。

母親の負担が増える

授乳は産後の母体の回復を促進する一方で、母乳を与えるためには必ずお母さんの負担が発生します。

授乳は毎回10~20分程度はかかるため、体の自由がきかない時間が1日のうち多く発生します。
また、完全母乳の場合、夜間の頻回授乳のある時期では授乳を交代できないために睡眠不足に陥りやすくなります。

また、乳頭の損傷や乳腺炎など、身体的トラブルが起こることも少なくありません。

場合によってはお母さんの食事や薬の成分が母乳に移行するため、食事内容に制限が出たり、体調不良時にも市販薬を気軽に飲めないといったことが起こります。

授乳量が把握しにくい

毎日どのくらいの量の母乳・ミルクを飲んでいるかは、赤ちゃんが必要な栄養を取れているかの目安にもなります。

母乳育児では授乳量がわかりにくいため、授乳量を知るためには5~10g単位の体重計(ベビースケール)など、特別な機器が必要になる場合があります。

母乳とミルクはどっちがいい?

母乳と育児用ミルクは栄養面、利便性、費用など、それぞれにメリットとデメリットがあります。
そのため、どちらかが優れていてどちらかが劣っているときっぱり判断できるものではありません。

公的な指針のひとつとして、厚生労働省では、授乳期のママ(・パパ・お世話をする人)に向けて、以下のような授乳に関する情報提供を行っています。

いずれのリーフレットにおいても、赤ちゃんを育てるにあたって「母乳でも育児ミルクでもどちらでも大丈夫」とされており、どちらが最善である…といった表現はされていません。

医師や助産師、保健師、管理栄養士などの保健医療従事者向けの指針(授乳・離乳の支援ガイド)でも、

「母乳で育てたいと思っている人が実現できるように支援を行う、育児用ミルクを選択する場合にも十分な情報提供の上その決定を尊重する」

…とされており、どちらかを強制するような内容にはなっていません。

各家庭の状況に合わせて選ぶのがよい

家族構成や生活スタイルなど、育児を取り巻く環境は家庭によってもさまざまです。
そのため、すべての家庭において、一概に母乳かミルクのどちらがよいと決めるのは難しそうです。

育児に関われる人が少ない場合には、利便性が最重要視されることもあるでしょう。
母乳育児に対して強い意欲がある場合には、お母さんの負担が多くとも実施したいという場合もあります。

家庭ごとに重視すべきポイントはどこか、見極めることが必要です。

メリットデメリットだけで選べない場合も

ミルクか母乳か…という選択において、栄養面やそのほかのメリットやデメリットはあるものの、必ずしも希望通りになるわけではありません。

平成27年度の乳幼児栄養調査における妊娠中のアンケート調査では、母乳で育てたいと回答した人が実際にはミルクのみの授乳になった場合も、ミルクで育てたいと回答した人が母乳のみの授乳になった場合もあったようです。

単なるメリットやデメリットだけでは選ぶことができない要因には、

  • お母さんの疾患、感染症、服薬など
  • 子どもの状態
  • 母乳の分泌状況

…など、希望だけではどうにもならない場合もあるので、誰がどのような授乳方法をとっていたとしても、否定されるべきではないはずです。

まとめ

ミルクと母乳において、基本的な栄養面ではさほど大きな差はありません。
栄養面での細かな違いのほか、利便性や身体的負担、費用面でそれぞれにメリットやデメリットがあり、それを理由に選ぶ場合も、やむを得ずどちらかを(多くはミルクを)選択する場合もどちらもあるでしょう。

ご家庭によって、その時々の状況によって、選択はそれぞれであり、どちらを選んでも問題はありません。
赤ちゃんや家族がより負担なく過ごすことができるほうを選ぶのがよいでしょう。

フォローアップミルクとミルクの違いや必要性について詳しく解説した記事はこちら

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参考文献

厚生労働省:「授乳や離乳について」

厚生労働省:「授乳・離乳の支援ガイド(平成31年3月)」

厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」 報告書

五関 正江、曽根 眞理枝、桜井 幸子、瀬尾 弘子、野田 知子、飯塚 美和子、圓谷 加陽子、成田 豊子、高橋 恭子、濱谷 亮子.最新子どもの食と栄養. 学建書院, 2015.

一般社団法人日本乳業協会:「乳と乳製品のQ&A」

平井 しおり管理栄養士
平井 しおり管理栄養士

2013年に管理栄養士資格取得後、保育施設に勤務、栄養相談などに従事。

現在は「イマカラ」にて、栄養とダイエットに関する科学的根拠に基づいた情報を発信しています。